カマスは男だった。
流麗な体を持ちながら、不器用で、あか抜けない。
ややもすると、野暮ったい。
そこがいじらしい。
だから油とあう。
天ぷらなんか最高だよと、智映さんは天ぷらをだしてくれた。
皮を引いていない天ぷらを噛むと、甘い湯気が登って、カマスが顔を出す。
その味には下手の迫力があって、食欲をあおる勢いがある。
キスの上品とは違う、庶民のたくましさが、酒とご飯を恋しくさせる。
そして今度は、焼き漬けときた。
醤油だれに長葱を入れて煮込んでから一味を入れてある。
ああそうか。カマスは、この味の強さがないと生きて来ない。
不器用な奴である。
最後は玄米と干しカマス。
フライパンで焼いて、水分を飛ばし、細かく細かくほぐして、固く炊いた玄米とまぶす。
一口食べて、笑った。
カマスは少し凛々しくなって、玄米の粗野と見事に一体化している。
味のふくらみを高めながら、我々の中の故郷に思いをはせる。
日本の原風景が広がっていく。
不器用で野暮ったいカマスは、恥ずかしそうに思いやりを見せて、優しい。
それもまた男なのだ。