福井「天菊」

より良き明日を求めて

食べ歩き ,

て「15で修行をはじめ、独立した時、「みかわ」の早乙女さんの本に出会ったのです。読んで、今まで感覚的に捉えてきたことは間違いなかったと思いました」。
70歳になられるご主人はそう言われて、静かに笑われた。
その後東京に行って、天ぷら屋巡りをしたという。
「何軒も回りましたが、みかわさんだけは、二回行きました」。
そうか、最初にエビをいただいた時、既視感を感じたのはそのせいか。
次々と素晴らしい天ぷらが上がる。
 
中でも、ササガレイの天ぷらが良かった。
身が緩く水分のあるササガレイは、天ぷらには難しいように思う。
「手前の子持ちは塩で、奥は天つゆでどうぞ」。
魚にふんわりと歯が入る。
甘みがじんわりと広がっていく。
海老やイカより一歩踏み込んだ揚げが、この繊細な魚の持ち味を、最大限に引き出していた。
「揚げる前に3時間ほどペーバーで水分を抜き、他の魚より突っ込んで揚げています」。
ここにも1人、現状に満足せず、より良い明日を求め続ける職人がいた。
福井「天菊」にて。