7月半ば、新潟「兄弟寿し」で佐渡のノドグロが握りで出された。
ちょうど産卵に向けて体を作っている時期なのだという。
口に運べば、体に満ちた脂が溶け出し、酢飯とまぐわう。
脂から感じる甘みと酢飯の酸味が抱き合い、喉が鳴る。
その時、脂の味が一瞬濃くなり、色香を増したように感じた。
聞けば海老ミソをかましているのだという。
南蛮海老(甘エビ)のミソである。
佐渡で獲れるのどぐろ餌は、南蛮エビなのだという。
実に理にかなった仕事である。
次に握られたのは、アジだった。
新潟沖のアジだという。
みていると、アジの切り身に横から包丁目を2本入れ、その間に薬味をかましてから握られた。
食べれば、分厚い身のアジはしなやかに崩れて酢飯と一体化し、その後からネギとゴマの風味が現れて、味を深くする。
「面白い仕事をなさっていますね」というと、ご主人は言われた。
「新潟のアジは脂はないが堅いので、こういうやり方をさせてもらいました」。
こういう話を聞くと、前のめりになる。
地の魚をいかに寿司として昇天させるか。
常に考えてらっしゃるのだろう。
続いて握られたのは、マグロの漬けだった。
食べると、漬けダレに、醤油や酒とは違う丸いうま味があって、それがマグロの味と自然に馴染んでいる。
「漬けダレにイカのミンチを混ぜています」。
そうか。
餌であるスルメイカの味を加えることによって、漬けダレとの一体感を生んでいるのか。
地方の寿司屋はこうでなくてはいけない。
地元の魚に対する敬意が、工夫を産み、優れた仕事につながり、ほかにはない美味しさを生む。
地方に行って、我々が寿司屋に出かけるのは、こういう店があるからこそなのだ。
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