東京とんかつ会議9
御徒町「本家 ぽん多」2625円 ご飯セット525円
<肉3、衣3、油3、キャベツ3、ソース3、御飯3、新香3、味噌汁3、特記柱フライ、シチュー1計25点>
満点である。一点の曇りもない。価格も過去のとんかつ会議上最高であるが、高価だからではない。十分に値打ちと釣り合っていると考える。
「ぽん多」のとんかつが、まず他のとんかつ屋と違うのは(代官山「ぽん太」は同類)、脂身を掃除したロースの芯のみを揚げることである。脂身は、溶けるような食感を提供し、甘い香りがあって、ロースカツには欠かせない。化学的にはあまり味はないのだが、食感と香りに、貴重なエネルギー源である脂摂取を察知した脳の反応が加わり、甘美に感じる。とんかつには欠かせない要素である。
ゆえに当会議では、毎回ヒレではなく、ロースカツを議題としてきた。しかし「ぽん多」は、その魅力的な脂身を取り去った、肉の魅力で勝負する。
注文すると、肉をたたく音が聞こえ、衣をつける動作が見え、鍋に投入した気配がするのだが、音は聞こえない。肉が油に入って、水分を揮発させる音がない。低温から徐々に温度を上げていくためである。
運ばれたカツレツの、わずかに肉汁がにじみ出た断面は、一面ロゼ色だ。よく見られる中心部がロゼ色の断面ではなく、均一にしっとりと火が入っている証左である。この光景だけでたまらない。
先代時にはもっと粗かった衣も、細かく、歯触りがよく、一部の隙もなく肉と密着している。肉と肉汁が、ゆっくり過熱され、ふくらみ、衣を押し上げるように揚げられているのである。そして舌に、まったく油を感じさせない。
油切れが完璧な衣に歯を立てれば、サクサクッと音が立って、きめ細やかな肉に歯が包まれていく。その途端、肉が香る。ほの甘いような、食欲を炊きつけるような逞しい香り。
歯が肉を断ち切る喜びと、豚肉の香りが相まって、「肉を食べているぞお」と叫びだしたくなった。
そんなカツを、二口ではなく、一口で肉の醍醐味を味わえる、均一な切り方もいい。そのため幅が短い端の部分は、やや太めに切られている。
先代から勤める職人の手による切りたてキャベツは、極細で甘く、ソースには華やかな香りがあって、主張しすぎないうまさがカツを持ち上げる。
甘く香り、艶やかに輝くご飯、胡瓜、白菜、柴漬けのお新香、なめこの味噌汁。いずれも日本食としての真っ当を貫いた品があって、清々しい。
一ヶ月に数日登場するシチュー、柱フライをはじめとした魚介のフライも、同様の、質と技を極めた、真っ当な上質がある。一流が持つ機能美のような、簡潔な、よどみのないおいしさがある。
「中々理想とする豚が少ないんです。ブランドとか産地とか、脂のことばかり言われる肉屋さんが多くて、実際肉を食べてどうだったか伝えてくれる人がいない。毎日が勉強です」。そう話す四代目は、清潔感に満ちた店内で、先代の教えを守りながら、少しずつ改良を重ねたとんかつを、今日も揚げている。