そのホヤは二人にだけしか、触ることを許していない

日記 ,

そのホヤは二人にだけしか、触ることを許していない。
漁師と料理人である。
前夜ホヤを波のない静かな海に移動させ、安らげる。
その後そっと海から引き上げ、研究に研究を重ねた荷造りで箱に詰め、東京に送られる。
届いたホヤは直ちに切られ、客の前に運ばれる。
おそらくまだ海の中で眠っていると思っているのに違いない。
そう思えるほど、えぐみが一切ない。
純真で微かに甘いエキスを滴らせながら、舌とからみあい、歯と踊る。
切られて小さくなっているのに、性の気配があって、胸をつく。
次にしゃぶしゃぶをにしてみるとどうだろう。
色香は淡くなるが、甘みがぐんと増えて豊かになる。
そう。ホヤは青春から壮年へと移行する。
中野「魚谷」にて。

食べログにも知られていない、こんなに魚がうまい店があるなんて。「魚谷屋」