そのアニョロッティは、息をしているようだった。
薄い薄い皮は、はかないのに、我々の歯をもてあそぶ。
薄く、つたない食感なのにコシがあって、粉の香りがある。
そして包まれた牛と豚、兎と野菜の優しい滋味が、静かに滲み出る。
脆さと凛々しさ、繊細と大胆が小さなパスタの中に存在していて、人間の手によって成されたものなのに、それ自体に意志があるように感じたのである。
「イタリア修業時代、色々な店でアニョロッティを食べましたが、自分が修行していたアニョロッティを超えるものはなかった。それを再現しました」。
中目黒のリストランテ、「カシーナ・カナミッラ」のシェフ岡野さんは、まだ33歳という若さである。
だが伝統文化の何が一番重要なのかを見極める眼力と、それを活かせる技を持ち、末来という伝統を生み出せる若者である。
そのアニョロッティは息をしている
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