徳山寿司の卵は淡黄色をしている。
オレンジ色と違い、命の初動を伝える、切ない色がある。
ところが白いご飯に乗せるとどうだろう。
さっきまでの淡黄色が、少し濃くなるではないか。
食べられる予感に、色を濃くしているのか。
ご飯との出会いに興奮しているのだろうか。
さっきよりつやつやと輝いて迫ってくる。
そんな卵がいじらしく、僕は二つの食べ方を選んでみた。
一膳目は、溶かずにご飯にかけてから、山椒の実を乗せてみる。
塩も醤油もかけずに、白身だけをそっと吸ってやる。
ちゅるっ。
白身は少しだけ抵抗しながら、舌に滑りこむと、微かな微かな甘味を覗かせた気がする。
そして黄身をつぶしてご飯と混ぜ、一気にかきこむ。
ずるるっる。
ああ、山椒の刺激が黄身の品を高めている気配があって、これはよい。
では二膳目といこう。
今度は白身と黄身を分け、白身を先にご飯に混ぜ、泡だてる。
そこへ黄身を乗せて、醤油をたらりと流し込む。
こいつは黄身をつぶしながら食べ進もう。
ふわりふわふわ、ザブザブザザッ。
泡立った白身が唇に舌に優しく、その後から黄身とご飯の甘味が続いていく。
喉に落ちかかる頃、急に切なくなったのは、卵の色のせいか、無くなっていく悲しさか、はたまたこの淡黄色に、恋をしたせいなのだろうか。