「すいません。お醤油入れてもらえますか」と、醤油瓶を差し出すお客さんに
「あら、空でしたか。あいすいません。誰かが飲んじゃったかしら」と、サービスのおばさんが返す。
それを聞いて、女店主がケラケラと笑った。
人形町「そよいち」はそんな光景が似合う店である。
今日はビーフカツにサラダ大盛り、ミニカレーを付けた。
ビーフカツは細かい衣がカリッと香ばしく、噛めば牛肉のエキスがにじみ出る
とんかつは塩だけで食べることもあるが、ビフカツはダンゼン、ウースターと辛子である。
ウースターの辛いうま味と辛子の刺激が、牛肉の濃い滋味を盛り立てて、俄然ご飯が恋しくなる。
日本一のマカロニサラダは、そのままでもよく、ちょっと辛子をつけてもよく、キャベツにかけたウースターが流れ出て、ちょいと染みた風情も捨てがたい。
さてカレーであるが、ご飯に少しかけて食べ、カツにソースとしてかけて食べ、スプーンの上に白いご飯とカツを乗せ、ウースター、カレーとかけて、一口で食べてみたりする。さらにいたずら心が出て、少しマカロニかけてみた。
うん、いけるじゃないか下手の味、こんなおバカを考えるのは僕くらいさと、隣を見れば、おじさんもビフカツを食べている。
最後に彼は、スプーンをもらい、マカロニサラダを乗せると濃厚ソースをかけて、その上にキャベツを乗せ、さらにご飯を乗せて食べるという荒業を繰り出した。
少し、悔しい。
いや、かなり悔しい。
ああ、いつもここでお昼ご飯を食べる人たちは、幸せだろうなあ。