子供のころは嫌っていたのに、大人になって好物になる料理のひとつが魚の煮付けだろう。
わたしもDNAに隠れ潜んでいた日本人の意識が芽生えて、四十を過ぎたころから俄然好きになった。
特に秋から冬にかけては煮付けがうまい。
町で煮付けの品書きを見つけると、ついふらりと店に引き寄せられてしまう。
この店もそうして出会った店だった。
しかも「さばの味噌煮」の前に「名物 根性の」と但し書きがなされている。
そこまで訴えられたからには、入らずにはいられない。
登場した味噌煮は珍しい筒切りである。
厚切りのさばが、赤茶の味噌ソースをまとってどんと皿の中央に鎮座している。
上にはねぎの小口切りとおろし生姜。
箸をつければ力を入れるでもなく、はらりと身がはがれた。
しっとりと煮あがった身に味噌の風味が程よく染みている。
味噌ダレが甘すぎることなく、脂の甘みにぴったりと寄り添い、味は上品ながらも二つの甘みが重なり合って、ご飯が進むこと進むこと。
よほど長時間煮込んだのだろう、骨を食べれば舌の上でほろほろと崩れた。
長時間ながらも味が濃厚になりすぎることなく、身のしなやかさを保っているのは、出来上がりの理想を明確に描いて仕事をしている賜物だろう。
さらに蜆が三十個ほど入った大椀のしじみ椀(\200)つければ、幸せな昼を迎えられることを約束する。
もうひとつの名物、塩さばの上に大根おろし、さらし玉葱と青ねぎ、針生姜をこんもりと乗せた、さばねぎ焼き(\950)もおすすめ。
さばの味噌煮 \850
根本
千代田区六番町1-2三井ビル2F
写真はイメージ