こんな白子は初めてである。

食べ歩き ,

「白子」と品書きに書かれていると、必ず頼む。
それほど好物なので、様々食べて来た。
しかしこんな白子は初めてである。
食べるとまず薄皮を感じさせない。
噛んだ瞬間にとろんと舌にしなだれる。
茹でたのに焼いたような香りが漂って、それが流れ出た濃密な肢体と合わさって、色気を高める。
もともと色っぽい食べ物だが、これはエロさの極限ではないか。
しかもどこまでも澄んだ味なのである。
低温60度で30分、余熱で30分加熱したという。
おそらくなんども試行錯誤したのだろう。
やはり井川さんは、愛すべき変態である。
今までのやり方では飽き足らず、もっと美味しい方法はないかと試し続ける。
化学的手法も踏まえながら、新たな方法を探る。
我々に幸せを運ぶために。
こうして白子は、その品のいい余韻だけで永遠に酒が飲める料理となった。
さらには、白子のフライも出された。
もちろんただのフライではない。冷たいフライである。
パン粉とオイルを、別々に加熱したのだという。
衣と白子の食感の対比が、さらに白子を妖しくする。
そして次は焼き白子ときた。
酢飯にミモレットをかけ、よくよく混ぜて食べろという。
ああ。これはいけません。
焼けた香りが白子の精を深くし、僕らをうま味の奈落へを突き落とす。
もう這いあがれません。
いや這いあがるつもりもありません。
日本酒と一緒に、深く深く沈んでいくのです。
日本中のどこにもない「鮨の蔵」の料理と握りは