トマトを半分に切り、手でつぶしながらパンになすりつける。
トーストは、ステーキのミディアムレアと同じように、表面をカリッと焼き、中をふんわりと仕上げる。
伸びやかな酸味を伝えるトマトの溌剌とした味わいと、焦げの苦みを伴ったトーストの剛胆が混じり、そこにオリーブ油の香りがまとう。
そこには、パンとトマト、オリーブ油と塩だけなのに、一つの生命体となって迫るような、凛々しさがあった。
そして、食欲の芯をわしづかみにする。
食べながら、鼻を膨らまし、口々に叫ぶ。
うまい。
「これが本来のブルスケッタです。トマトを刻んでパンに乗せるのは、本来の姿では、ありません」。
ブルスケッタは、我々の知る軟弱ではない。
素朴でシンプルな伝統料理。それは大地に人々の智慧が滲んだ味わいだった。
「メゼババ」にて。