ここにも一人変態がいた。
キンメである。
キンメを白板昆布で挟み、一分間蒸しては一分間休ませを20回続ける。
しかる後皮を鱗ごとパリッと焼くのだが、ここからが彼らしい。
食感が悪くなるので鱗を立たせたくない。身には0.1キロカロリーも熱を加えたくない。
そのため氷を巻いたアルミ箔を身にかぶせ、手でもってフライパンで焼くのだが、鍋に乗せてしまうと立ってしまうため、鍋から1㌢離した空中で持ち続けて、焼き上げるのである。
相当腕や手が熱いだろう。しかし我慢して焼き上げるのである。
椎茸と鰹節のジュレが添えられたキンメは、焼かれているというのに、まだ命のみずみずしさを残している。
キンメの、純粋なうま味が深められているのだが、淀みも雑味もなく、清廉な味わいに満ちている。
食べて目を閉じれば、深い海の底にいる。
やけどをこらえて焼かれた皮は、薄く薄くパリンと香ばしく弾け、皮下の甘みを凝縮させて滲ませる。
添えられた柑橘類は、キンメの滋味と出会い、爽やかさが品性を醸し出す。
キンメだけではない、牡蠣や肉でも、彼の変態は発揮されていた。
その、どこにもない、おいしい話はまた今度。
江別野幌「薫」にて。