お粥の意味。

食べ歩き ,

お敷の上に、小さなお椀が一つ座っている。
「片折」では、必ず最初にこの光景が作られる。
蓋を開けると湯気が立ち上り、青く、甘い春の香りに、顔が包まれた。
スナップエンドウのお粥である。
お粥は、お客さんが食べ始める時間に合わせて炊かれ、スナップエンドウは寸前で茹でられ、さやをとってお粥と合わせられる。
塩はしない。
「お粥を最初にお出しするのは、僕自身が体調の悪いときに祖母が作ってくれたお粥に感動した経験からです。同じ気持ちをお客さんにお届けし、心と体を温めて頂きたい。季節の品を加えますが、それとて邪魔しないような一体感に仕上げています」。
片折卓也さんは、そう言って、口元を引き締められた。
「片折」の料理は、この言葉に集約されるだろう。
お粥を食べる。
豆がぷちっと潰れてから、米に歯がはいる。
豆の香りが来て、米の甘みが続き、豆の甘みが広がっていく・
だがそれは、おぼろげな光のように切ない。
その繊細の中に、我々は生命の力を感じて、感謝する。
石川の米と豆と水に出会えたことに、感謝をする。