神田  香川一福

うどんは、私にすすられているのではない。

食べ歩き ,

「つるるん」。
白きうどんが口元に登ってくる。
その時、ふと思った。
このうどんは、私にすすられているのではなく、自らの意思で口の中に登ってきているのではないかと。
おいしいうどんには必ず、そんな、生きている勢いがある。
うどんの魅力は、輝きと滑らかさ、香り、コシにある。
この中でコシを、硬さと勘違いしている人が多いように思う。
特に讃岐うどんとなれば、余計にそう思われる方が多いのかもしれない。
しかし「香川一福」で食べて思った。
コシとはうどんの優しさである。
噛んだ時に歯を優しく押し返す弾力が、コシという思いやりなのではないか。
この店のうどんは、一般的な讃岐うどんより細い。
だが細いうどんは、そんなコシを感じさせながら、喉元へと落ちていく。
素の魅力を味わいたければ「ひやかけ」だろう。
細いので、「ずるんっ」ではなく、「つるんっ」と滑らかに唇を通り過ぎていく。
うどんを途中で噛み切ろうとすると、「いや〜ん」と言うがごとく、麺が少し伸び、抵抗してから千切れる。
このしなやかな伸びがいい。
唇と離れることが嫌だったんだねと、言葉をかけたくなるいじらしさがあって、ますます好きになる。
やがてうどんは、歯を押し返しながら、ほの甘い香りを漂わせ、10回ほど噛めば、喉奥へと旅立っていく。