夜の帳が気配を見せる前に、暖簾を潜った。
「いらっしゃいませ」。
三席しかないカウンターの端に腰を下ろす。
品書きを睨みながら、「枝豆とビールをください」とお願いし、再び今夜の供を考える。
刺身はカレイにしよう。
滝川豆腐と胡麻和えも欠かせない。
締めは、岡田茶わんとしんじょにしてみよう。
もずくは、酢の塩梅に緩みがない。
細く切られた滝川豆腐が、舌の上を滑り喉に落ちていく。
ひんやり。ふわり。
小さな滝となって流れゆく清涼が、夏のありがたみを膨らます。
うっすらと飴色がかったかれいが、ほのかな甘みを落とす。
刺身の引き方が、大きさが、これ以上でも以下でもなく、実にほどがよく、ほっこりと心を温める。
アスパラの胡麻和えを食べれば、その甘みが酒を呼び込み、目が細くなる。
アジ納豆は、納豆越しでいかったアジの脂が迫ってくる。
あげしんじょを箸で割れば、ふわりとエビの甘い香りが立って顔を包む
さあ岡田茶わんが運ばれた。
これも滋味がいきすぎてない。
さらりとうまい。
これこそが品であり、粋であること心得た味わいである。
汁を少しすすりながら、燗酒をチビチビとやるのがたまらない。
ああ、時間よ永遠になれと思う瞬間である。
「はち巻岡田」にて。