〜崇高なる甘み〜

食べ歩き ,

〜崇高なる甘み〜
蘇民将来子孫也
「甘い」ということに、感謝する味だった。
銀座「大夢」の菓子は、厄除け粽である。
塗りの板と白石による河原に、紅ちがや(イネ科の多年草、昔の粽はこの葉で巻いた。夏越の祓の「茅の輪くぐり」ちがやで編んだ草)があしらわれ、真ん中には、笹の葉で包んだ粽が置かれた。
粽を包む紐をくるくるとほどくと、淡く黒紫に色づく、羊羹状のものがあらわれた。
焦がし麦(はったい)で作られた菓子である。
笹の葉に口をつけ、吸いはがすように口に運ぶ。
ひんやりと唇に触れたはったいは、すべるようにして口に入っていく。
ぼんやり、ぽってりした菓子をつぶすと、香煎と呼ばれるはったいの胸をくすぐる香りと鼻孔を涼やかに通る笹の香りが交じり合い、その後から緩やかな甘みが顔を出す。
希少な甘みだった。
普段世に溢れている過剰な甘みとは、住んでいる次元が違う。
先祖が、半年間の厄除けを祈って、厳しい夏を乗り越えたありがたみを込めた貴重でわずかな甘みが、舌を流れ、喉に落ちていく。
甘みへの、忘れていた感謝が蘇る。
それは、過多な情報に埋没していた人間に、人間としての隙間を開ける、希少な甘みだった。