〜出会い〜
「片折」ではいつも、目の前て掻いた鰹節を昆布出汁に沈め、味付けしないでひと口出される。
昆布出汁は、5時間ほど火加減を調整しながらとられた出汁である。
毎回味わいながら、いつもより鰹節が少し強いなあとか、淡いなあとか思う。
しかしそれがお椀となって現れた時、天啓のように、理由が明らかにされる。
ほのかに強さを感じた時の椀種はおこぜで、おこぜの力と濃い出汁が四つに組んで、唸るような滋味を膨らませていた。
淡いと感じた時の椀種は、アイナメだった。
脂が乗ったアイナメには、淡い淡い出汁の仕立てにして、塩もほぼ使わずお椀とされたのである。
こうしていつも答え合わせがあって、椀物への感謝を深くする。
昨夜は、昆布が少し濃いと思った。
椀種は、紅ズワイのよせ物だった。
蓋を少し開けて香りを嗅げば、カニの甘い香りがカーブを描いて鼻腔をくすぐる。
飲めばもうそこには、昆布の強さは微塵もない。
清廉なうまみだけが、静かに横たわっている。
蟹はわずかな鯛のすり身でつながり、文字通り寄せられている。
箸でほろりと崩せば、つゆの中に散っていく。
蟹の柔らかな甘味は、昆布に抱かれ、溶け合い、優美に舞う。
カニと出会ったつゆは、昆布の強さを消し、朝露の純真に変わっていく。
そして時は、永遠となる。