この鰻は、「縦食べ」がいい。
縦食べとは、皮と腹を左右にして口に運ぶことである。
ふつう蒲焼は、皮を下側(つまり舌側ですね)して食べると、皮側のコラーゲンや脂がニュルッと舌に広がっておいしい。
だがたまに質の悪いものに出会う時は、匂いが気になるので、腹側を下にする。
だがこの鰻は縦食べがいい。
だが岡田さんが目指すのは、そのどちらでも無い「静岡焼き」である。
蒸さないが柔らかく、地焼きだがカリカリに焦げていない。
そんな蒲焼は、筋肉の躍動がある。
精力たっぷりにしぶとく生きてきた鰻の生命力が、噛んだ瞬間に爆ぜる。
それを最も享受できる食べ方は、縦食べである。
縦にして鰻を折りたたむように歯を入れる。
すると鰻は、一瞬歯を押し返すそぶりを見せながら、歯を迎え入れるのである。
噛む。食らうという本質的行為に、本能が喜ぶ瞬間が、そこにある。
だがこの唯一無二の鰻が、あと一年食べられないのかと思うと寂しい。
岡田さんは、1年間料理の修行に入るのである。
30数年料理人を続けてきた岡田さんだが、再び料理修行に入るという。
寂しい。
とてつもなく寂しいが、一年後にどんな鰻を焼き、どんな料理を作るのかと思えば。楽しみでならない。
静岡「瞬」にて。