京都 東山三条「うえと」

甘やかな霞をかける酒。

食べ歩き ,

「ウイスキーを。おまかせします」。
そう伝えると、上田さんはしばし考え、ボトルを取り出した。
上田さんが15年前にイタリアで買ってきたボトルだという。
ボウモアだが、見たことのないラベルである。
ちなみにDAWNと書かれ、グースの絵が絵が描かれているが、味わいには何の要素もない。
もう一杯分しか残っておらず、恐らく最後に上田さん自身が楽しもうと思っていたものだろう。
その気持ちが嬉しかった。
香りを嗅ぐ。
甘い蜂蜜のような樽香が上がってくる。
口に入れると、微かにビリビリと強さがはじけるが、その奥に丸がある、
丸いが強い。
そして余韻が長い。
飲み込んだ後に、胸の辺りから上に向けて、余韻が広がって、頭を包む。
そのまま、艶かな余韻がたなびくのだった。
ボウモアらしいスモーキーとピーティさは要素としてあるが、わずかだけである。
強さとエレガントが境目なく抱き合って、心を溶かす。
官能を撫で、脳に甘い霞をかける。
その液体は、たった3ccでも、永遠に時間を継続させるのだった。
もし、今まで生きてきた人生に思いを馳せるウイスキーがあるとしたら、まさにこれである。