「喜来登」のお作法

食べ歩き ,

「天候悪化のため羽田に折り返すことがあるかもしれません」。
そのアナウンスを聞いた瞬間、蕎麦と決めていた昼食が、もう味噌ラーメンしか思い浮かばなくなった。
無事着陸し、札幌駅つくと、猛烈に雪が舞っている。
ああ、素晴らしき、味噌ラーメン日和である。
今日は、お気に入りの「喜来登」へ向かうことにした。
「いらっしゃい」。
元気に満ちた、お母さんの掛け声が、しばれた体を抱きすくめる。
「どの味にしますか?」
「味噌をください」。
やがて湯気を立てながら、味噌ラーメンが運ばれた。
スープを一口飲む。
唇が、舌が、喉が、優しく潤おい始める。
卓上には、白胡椒、黒胡椒、一味、辛味スパイスが並んでいる。
こうした布陣に燃える。
食作法マニアの私は、俄然燃えてくる。
喜来登のラーメンのお作法
①スープを一口。玉ねぎの甘みが溶け込んだスープの味を確認。
②ラーメンネギ界のチョモランマと呼ばれるネギの山頂から三分の一を、北壁側(つまり丼の向こう側ね)に落としそのままスープに漬ける。
③ネギの下から麺を探り出し、掘り起こし、一気にすする。
④もやしと一緒に麺をすする。シャクシャクした歯触りとコシが強い麺との食感の対比を楽しむ。
⑤次はネギと。シャキシャキのネキとの対比を楽しむ。
⑥ここでスープを飲んで、句読点。
⑦味が染みた濃い味のシナチク、鶏挽肉団子という二大脇役の味に目を細める。
⑧シナチクと一緒に麺をすする。これまた食感の対比の妙。
⑨ここで白胡椒を一振り、味の変化を感じるが、ニンニクの香りと玉ねぎの甘み、味噌のコクに、白胡椒の刺激は、なんなく吸収されてゆく。
⑩鶏団子だけに黒胡椒をたっぷりとかけて突き崩しながら麺と食べる。うまい。
11 ①から⑩の作法を繰り返しつつ、次の段階へ。
12、小鉢をもらい、そこへ辛味スパイスと一味を振り入れて、スープを少量注ぎ、辛いつけ汁を作る。スープに辛味を振り入れてもいいのだが、後戻りできないため。
13.小鉢には、崩れた鶏団子とネギなどを入れておき、麺を適せん漬けてすする。
14.辛いつけ麺、通常の味噌ラーメンを行きつ戻りつ、往復しながら食べ進む。
15麺を食べ終えたら、スープに浸かってクタクタになったネギをまとめて食べ、ネギの甘みが口に広がった段階でスープを少し啜って大団円。
ふうっ。