「初体験」。
22歳だった。
レバ刺し、馬刺し、モツ煮込み、辛子蓮根、茄子味噌炒め、鶏おじや、〆サバ、川海老から揚げ、揚げだし豆腐。
すべてこの店が初めて食べた。
フレンチは食べていたのに、社会人になるまでこんなものを食べていなかったなんて、僕は何をしていたのか。
「中野に住んでいるのに田原坂知らないの?」と、連れて行ってくれたのは、同期のコーヘイだった。
数えきれないほど、ここで飲んだ。
同期のエトー君と、タワーオブパワーとアースウィンドファイヤーのどちらがエライか、激論したことが懐かしい。
あれから、36年が過ぎた。
いまは一年に一回行くか行かないか。
サングラスのような眼鏡をかけて角刈りの元気がよかった親父さんは、とうの昔になくなり、今は女将さんと明るい若者たちで切り盛りしている。
レバ刺しと茄子味噌炒めは、もうないね。
カウンターの中にあった煮込みの大鍋も無くなったが、名物煮込みは健在である。
昔とどう味が変わったか、変わらぬかはわからない。
あのころは「うまいっ」と叫んで、そのままだったからね。
もっと慎重に、味わっておくべきだったなあと、思う。
閉店