太い。
とてつもなく太い。
加熱されたアスパラガスは、穂先から精気を放っている。
「ほうら食べてごらん」と、誘いかけてくる。
茹でられてもまだ生きていて、食べる人間の活力を問うてくる。
「お好きにどうぞ」と、女将さんが微笑む。
僕は決めた。
緑からいこう。緑の穂先からいこう。
かぷり。
一瞬でアスパラ畑の只中に立っていた。
青々しい香りが弾け、瑞々しいエキスが迸る。
もう箸なんか使ってられない。
手で持って、根元に向かって齧っていく。
エキスが溢れ溢れて、唇からこぼれそうなほど、口を満たすので、吸うようにして齧りつく。
これは、アスパラの命と人間の根比べであり、魂の交換かもしれない。
次に白アスパラガスへと手を伸ばす。
こいつはミネラル感が豊かな、根元から行ってみよう。
かぷっ。
「ううっ」。
思わず嗚咽が漏れる。
とうもろこしや筍に似た甘やかな香りが流れて官能をくすぐり、ほのかな苦みや甘みが流れこんでくる。
そのエキスの多さに目を見張り、圧倒される。
土の養分だけを蓄えながら、天に向かって伸びんとする力が、香りとなり、液体となり、舌を舐め、喉に落ち、体の隅々へと染み渡っていく。
そこには、他の命を絶って生かされている我々という存在への、感謝があった。
飯田「柚木元」にて。
アスパラは日中暖かくなると水分を消費してしまう。そのため晴れている日は朝9時ごろに採るのが、最適なのだという。
塩と熊味噌、黄身酢が添えられたが、まったく何もつけずに食べ、心が満たされた。