〈立ち食いそば屋で出会った、初めての5つ〉
1.箸置きに箸が置かれたのは、初めてである。
2.塗りのお盆で出されたのも、初めてである。
3.さらに言えば、水のグラスは、プラスチックではなく、ガラスであった。
これだけで、この店が飲食店としての真っ当を貫こうとしていることがわかって、清々しい気分になる。
そして僕は、立ち食いそばではこれも初めて用意されていた「花巻蕎麦」に、天ぷらを二つ頼んだ。
4.一つは、立ち食い蕎麦屋の基本であり、その店の指針がよくわかるかき揚げであり、一つは、なんとこれも立ち食い蕎麦屋では初めて、タラノメの天ぷらである。
花巻そばは、薬味にネギだけでなくわさびが添えられていて、「わかってるねぇ」と、心の中でつぶやいた。
つゆを一口すすって、目を見開いた。
鰹節の香りがぷーんと顔をつつむ。
しみじみとうまい。
聞けば本枯節を使っているのだという。
単に本枯節を使っているのだけでない。
出汁の取り方が丁寧で、香り、キレ、コク、余韻など、なにを求めたいかを明確に思い描いて仕立てたつゆである。
磯の花である海苔を巻き散らすことから、「花巻」と名づけられた種物の、香ばしさが漂う。
こんなつゆだから、ぼくはばら海苔の部分に、少しずつワサビを溶けませながら楽しんだ。
ちなみにもう一つ、立ち食い蕎麦屋での初めてがあった。
5.BGMに、サルサが流れていたのである。
小伝馬町田そばにて