飯田「柚木元」

〈松茸の真実〉VOL1

食べ歩き ,

松茸の土瓶蒸しを出す前に、ご主人は2つの松茸を取り出した。

傘の開いたものと、高価な傘が閉じた中くらいのサイズである。

「土瓶蒸しは、この二つを入れます。歯応えと香りです」。

しばらくして出された土瓶には、傘の閉じた松茸が二つと大きき開いた傘が入れられている。

松茸以外は何も入れられていない。

つゆを飲む。

芳ばしい香りが口に流れ、鼻に抜ける。

香りにうっとりとしていると、舌の上には、松茸自身の淡い甘みが揺らいでいる。

なんと気品のある甘みだろう。

甘みが研ぎ澄まされて、輝いている。

次に傘の閉じた小さめな松茸を食べた。

ゴキッ。

採られてまだ4時間しか経ってない松茸は、痛快な音を立てて裂ける。

新鮮な松茸の「俺はまだ生きているぞ」という雄叫びである。

次に今より少し大きい松茸を食べてみる。

ザクッ。

これもまた痛快だが、歯応えが違う。

ゴキッとは違う成長点があって、ザクザクと歯が入っていく様子が楽しい。

そして開いた傘である。

傘の表意はぬめっとして噛むとふんわりと歯が沈んでいく。

中には、松茸自身の汁があり、それがじゅっと、滲み出る。

開いた傘と閉じた松茸の対比がいい。

他では知ることのできない松茸の真実は、こうして始まった。