松茸の土瓶蒸しを出す前に、ご主人は2つの松茸を取り出した。
傘の開いたものと、高価な傘が閉じた中くらいのサイズである。
「土瓶蒸しは、この二つを入れます。歯応えと香りです」。
しばらくして出された土瓶には、傘の閉じた松茸が二つと大きき開いた傘が入れられている。
つゆを飲む。
芳ばしい香りが口に流れ、鼻に抜ける。
香りにうっとりとしていると、舌の上には、松茸自身の淡い甘みが揺らいでいる。
なんと気品のある甘みだろう。
甘みが研ぎ澄まされて、輝いている。
次に傘の閉じた小さめな松茸を食べた。
ゴキッ。
採られてまだ4時間しか経ってない松茸は、痛快な音を立てて裂ける。
新鮮な松茸の「俺はまだ生きているぞ」という雄叫びである。
次に今より少し大きい松茸を食べてみる。
ザクッ。
これもまた痛快だが、歯応えが違う。
ゴキッとは違う成長点があって、ザクザクと歯が入っていく様子が楽しい。
そして開いた傘である。
傘の表意はぬめっとして噛むとふんわりと歯が沈んでいく。
中には、松茸自身の汁があり、それがじゅっと、滲み出る。
開いた傘と閉じた松茸の対比がいい。
他では知ることのできない松茸の真実は、こうして始まった。