宮保鶏丁(ゴンバオジーディン)は、四川料理の鶏肉とナッツ、唐辛子の炒めである。
本来はピーナッツだが、日本の中国料理店ではカシューナッツを使うことが多い。
日本人の誰しもが親しんできた料理だが、「趙楊」のそれをいただいた時、一気に目の前が開いて、陽光が刺してきた。
甘みと酸味のバランスが美しい。
どちらによることなき、均整取れた自然な味わいがしみじみと美味しい。
そして、口に運ぶたびに香りが鼻腔を揺らす不思議がある。
刺激的なような、懐かしいような、暖かさを持ちながら食欲を焦らす香りがあって、それがどうにもたまらない。
「花椒を焦がすのだが焦がさない。唐辛子を焦がすのだが焦がさない。この香りがこの料理は一番大事ね」。
そう趙楊さんはいう。
味よりも香りを最も大切にする中国料理の真実である。