「理想のお米を作るため、水田探しから初めて二年かかりました」。
そう言って、シェフは田園風景の写真を見せた。
「時間がかかりましたが、その間、川魚漁師や野菜農家と親しくなって、多くのことを学ぶことができました」。そう言って柔らかな笑顔を浮かべられた。
シェフがテーブルに来て説明するのは、この時だけである。
よほど「米」に力を入れているのだろう。
数皿の前菜が終えた後、[メインコース /タイのシェア方法]と題された料理が米料理だった。
炭床にかけた特製窯の蓋をとると、湯気が上がり、歓声が上がる。
長粒米の一粒一粒が立って、こちらにファイテングポーズをとっている。
「かかってこい」とも、「サワディーカー」とも言っているようでもあった。
食べれば、ご飯とご飯の間に空気が入って、ふわりと舞う。
甘く華やかな香りが、口の中を満たしていく。
あとは、タイ風に、様々なものを混ぜ合わせ、サムラップして食べよう。
トムパッゲン、煮込み、カレー、揚げたもの様々な料理が目の前に並ぶ。
ソムボクチリ ペースト、揚げた豚皮、甘海老、ナンプラー漬けのうずら卵の黄身、鮑と鮑肝、マンゴージンジャー、 カシューナッツリーフ、ブラジリアンペッパーツリーリーフ、グアバ、クレッドテールナマズ、臭豆、南部カレーペースト、車海老オムレツ、朝顔の茎炒めなど、それぞれをご飯に合わせ、時としてまぜまぜし、口に運ぶ。
様々な食材、料理の食感、香りがご飯にからむ。
甘い、酸っぱい、しょっぱい、苦い、うまい、辛い。
五味をご飯が受け止め、我々の心を溶かしていく。
その奥には、米に対する愛と感謝があった。
米を大切にし、敬い、料理する心はタイ人も日本人も変わらない。
バンコク初のミシュラン三つ星「sorn」にて