ノドグロをバカにしていた。
人気があるのは知ってはいるが、どうもあいつはだらしない。
脂が多いが、しまりがなくて、だらしない。
しかし、そのノドグロは違った。
切り身で焼くのではなく、骨つきで1匹丸ごと焼いたせいもあろう。
丸々と太った、長さ四十数センチもある見事な体躯であったせいもあろう。
そしてなによりも、魚を熟知し、どうして食べるのが一番ベストか研究しつくしている北山智映さんが、焼いたからであろう。
脂のダレが微塵もない。
身は品がよくしなやかで、舌にふんわり着地して、澄んだ甘味が流れ出る。
脂はのっているのだが、これでもかという押し付けがましさがなく、甘い香りを残しながら、すうっと消えていく。
エレガントなのである。
今まで食べたのは、未成熟の勢いを残した、まだ落ち着いていない脂であり、こちらは、酸いも甘いも噛み分けて大人になった、熟した成人の脂なのである。
つまりそれは粋な味であり、ノドグロが本来持つ気品を示している。
焼き切った魚しか生み出せない、旨みである。
若い子にも色気はある。
だが本当の色気とは、熟さないと醸すことができない。