日本人という民族の凄みを感じた。
中国古典料理に精通した日本人の料理人が、現代の技法と食材で、新たに良き味わいを求めて編集し、作り直す。
つまり中国本土で中国人が、東北の伝統料理を現代の技法で,蘇らせていると同じことである。
例えば「酔蟹(ズイシエ、酔っ払い蟹)」という料理がある。
活け蟹を、老酒や白酒に香辛料と漬けた、江南地方の伝統料理である。
井桁シェフは言う。
「皆さん酔っ払い蟹を食べた後に漬け汁を残すじゃないですか。あれをなんとかしたかったんです」。
酒をこよなく愛した詩仙に敬意を込めて「李白」と名付けられた料理は、紹興酒,茅台酒,青山椒に蟹を漬け込んである。
上には茅台酒のグラニテが泡になって乗せられていた。
まずグラニテを少し食べる。
甘みの中から,茅台酒の芳ばしい熟成酸化香が立ち上がり、心が溶けた。
蟹をしゃぶる。
白酒と紹興酒を染み込ませた,蟹の白き身が、とろんと舌や上顎をなめる。
ディープキスの陶酔がある。
ミソも危ない。
命の神秘を伝える濃密な味に,酒のコクが入り込んで、脳幹を揺らし,体から力を抜き取る。
「うう」。
うめき声を漏らしながら、蟹同様に、体がくにゃんらとなった。
気がつけば、漬け汁を全部飲み干している。
甘美な余韻に浸りながら考えた。
これこそが料理の品格というものだろう。
料理にはゴールがない。
人間の努力や発想は尽きないのだから。





