今のフランス料理店で、見なくなった部位が二つある。
ロニョンとセルヴェル・ド・ヴォーである。
成牛のセルヴェル(脳)は、BSE以来禁止だが、同時に使用可能な仔牛のそれもメニューに乗らないことが多い。
一方ロニョン(腎臓)も見なくなった。
以前は、多くの店が出していたのに。
一つは入手困難になったことがある。
BSE以来、輸入検疫が厳格化され、冷凍以外が難しくなった上、国内での流通が少ない。
鮮度管理と下処理の難しさ、歩留まりが悪い上に値がつかないといった理由が挙げられよう。
また客の嗜好が、クラッシックから軽ろやかなモダンに移行していることも否めない。
とにかくロニョンの料理は、見かけなくなった。
ロニョンにはクセがある。
アンモニア臭があり、だからと言ってそれを完全に取り去ると意味がなく、また少しでも火を通しすぎると、魅力的な食感が失われてしまうという調理的難しさも、調理をする人が少なくなった理由でもあろう。
だが。
先日いただいたロニョンには、陶酔があった。
サカエヤ新保さんが手当したロニョンを、手島シェフが料理をした。
一つは、赤ワインのソース、一つは伝統的なムルタード(マスタード)ソースである。
ムルタードからいただく。
プリッと歯が入ると、レバーのような濃厚さに、赤み肉に通ずる鉄分感を感じる。
バターに通じる芳醇なコクにうっとりとしていると、ロニョン独特なお香りがほんのりと漂い、野生的なコーフンがやってくる。
やんちゃな酸味とまろやかさを持ったムルタードソースと出会い、包まれ、フランスの空気を吸いながら食べている高揚に満ちていた。
シェフ曰く、相当ポテンシャルが良くて、臭みを消すなどの仕事を一切せずに加熱したという。
中心をロゼ色に仕上げたキュイッソンにしあげ、プリッだけではなくサクッやコリッとした食感も共存していた。
一方、赤ワインソースのロニョンは、若干クセを感じたため、牛乳とクリームに漬けてから加熱したのだという。
ソースは深淵なれど、酸が生き生きとしている。
これがロニョンの香りと合わさると、色気が醸され、官能的な香りとなるのだった。
「フランス料理を食べているぞぉ」。
そう叫んで立ち上がりたいほどのコーフンが、体を駆け巡る。
こういう少しクセのある食材こそ、ソースは真価を発揮し、特有の陶酔を呼び込み、ワインを恋しくさせるのだった。
最後にシェフに感謝を伝えると
「僕は向こうで勉強させてもらったけど、今の若い人は触ってもいないと思うので難しいかもしれません。久々に料理させてもらって、ありがとうございます」。
そう言われた
京橋「シェイノ」にて。
ガルニの「ドフィノワ」が、なんとも優美な味わいで、その優しさが一層ロニョンの野生を際立たせるのだった
