蓋を開けた瞬間、「わっ」と叫んで、また蓋をかぶせてしまった。
それほどに光景が眩しく、優しい匂いに包まれて、恐れ多い。
もう一度、ゆっくりとふたを取った。
茶碗蒸しの上に出汁がはられ、ミズの実とずわい蟹が横たわっている。
出汁と蟹の香りが抱き合って立ち上り、顔を包み込む。
そうっと茶碗蒸しをすくい、蟹と共に口に運んだ。
出汁のうま味、玉子の甘味、そして蟹の奥深い甘みが舌の上で出会い、美しく混ざり合って行く。
目を閉じ、笑いながら、甘美な陶酔を何度も味わい、充足のため息をついた。
しかし甘いだけなら、単なる堕落さ。
ミズの固い食感と、わずかに入れられた柚子胡椒の刺激が、味覚を覚醒させて、余計に蟹の香りと甘みを引き立てている。
柚子胡椒を使った高橋さんのセンスと勇気に、また一つ、ため息をつく。
角館「じん市」にて。