hanaiti
久々に、この店のことが書ける。
20数年前に訪れた時は、名古屋の人でさえ知らず、その日に電話して、伺えることができた。
だがあちこちで紹介するうちに、「敦煌」同様、自分で自分の首を絞めた。
いつしか2年先まで満席となり、予約至難となったのである。
ちなみに来年はもう満席で、再来年は予約を取っていない。
店を続けるかも、決めてないという。
だから久々に書くことにした。
昨夜は、店を開いて40数年、九千七百五十番目の夜だった。
「向」、「冷」、「焼肴」、「煮魚」、「焼物」、「早寿司」、「煮物椀」、「汁物」。
船屋根型の板に、半紙が貼られ、墨痕鮮やかに、流麗に記された料理名が並ぶ。
今夜は、この店で過ごす最後の夜になるかもしれない。
そう思うと、すべての料理を食べたくなった。
向付は、すべてお願いした。
「銀蔵造り」と、僕が勝手に呼んでいるお造りは、皿の選びと盛り方が、唯一無二である。
店主銀蔵さんの美学が、ひっそりと息づいていて、孤高の輝きを放つ。
緻密に積み重ねたものもあれば、ざつくりと、切り落としたままかのように、盛られたものもある。
ヤリイカ、たちうお、鯛の霜ふり、いわし、さわらたたき。
運ばれるたびに、息を呑み、恋をした。
前編終。以下次編へ。
名古屋「花いち」にて。