煮込まれ、蒸されたすっぽんが現れた。
シェフが甲羅を剥がすと、歓声が上がった。
アワビである。
甲羅の下にはアワビが詰め込まれていたのであった。
「福鼋有不鮑」。
スッポンが干し鮑を飲み込んだという料理名である
すっぽんは蓋なしで一回炊いて 臭いを揮発させ、四時間蒸したのだという。
そこへ大間の干し鮑を戻したものを詰め込んで蒸したのであった。
干し鮑といえば吉浜が有名だが、吉浜が最初から糸で吊るして干すのに対し、大間のそれは、いったん並べて干したから吊るして干すのだという。
そのため味がいいらしい。
盛られたアワビをいただく。
おうっ。
アワビの香りと滋味の中からコラーゲンの甘みがそっと顔を出すではないか。
その感覚は、すっぽんのそれだろう。
え? 残ったすっぽんはどうしたかと?
もちろんいただきます。
こそげ取った残りの肉などを、互いの煮汁、蒸し汁を合わせ、泡飯にしたのである。
アワビの香りととろんと溶けたエンペラの甘み、すっぽんの肉体のたくましさが渾然と丸くなって、米に染み込み。舌を抱きしめる。
それは優しく深い味ながら、精神を鼓舞するような滋養に満ちていた。
京都「仁修楼」にて。