タリアッテレ、トロフィエ、フェットチーネ、ピーチ、ビゴリ、ガルガネッリ、キッタラ・・・。
メニュー開いて、こんな生パスタ名が飛び込んでくると、喉が鳴り、唾が出て、胃がざわめく。
「僕の作ったパスタを存分に楽しんでください」というシェフのメッセージを感じ、「さあ、どれから食べてやろうか」と、俄然意欲が湧いてくる。
ではその魅力とはなんだろう。
まず思い浮かぶのが、乾麺とは違う食感、イタリア食文化の深さを伝える豊富な形状だろう。
これらは生パスタには欠かせない魅力である。
だがなによりの魅力は、個性を楽しむことにあると思う。
一口に讃岐うどんといっても、うどん職人によって太さやコシ、粉の選別、配合、打ち方が違うように、料理人の個性を楽しむのが、生パスタなのである。
そのことを強く実感させるのが、昼でも七〜八種類の生パスタがいただける、「トルッキオ」のビゴリだろう。
ビゴリは、ウェネト州の手打ちパスタで、木馬を思わせる機械トルッキオにまたがり、ところ天のように生地を押し出して作るパスタである。
ただし、他店のそれが素朴なボソッとした食感なのに対し、林シェフのビゴリは、歯を一瞬押し返すようなモチモチとしたコシが宿っている。
それでいてしなやかなのだ。
まさに出来上がりをイメージし、粉と水の配合を編み出した結実である。
そんなビゴリにイカスミを打ち込み、新鮮なアカザ海老のソースを合わせたパスタのおいしいこと。
その他ソースや合わせる具材によって、使う粉や配合、厚さを変えたパスタに出会える、生パスタ王国である。
六本木の「クローチェ・デリツィア」(閉店)でも、斉藤シェフの個性が出た逸品に出会える。
その代表がピサレイではなかろうか。
うずら豆大のかわいい形状で、もっちりとした歯応えの中に粉の風味が漂う、ピエモンテ地方のパスタである。
うずら豆と豚足を煮込んだソースを口の中で合わせると、三者の異なる甘みと食感が重なりあって、笑いだしたくなるおいしさがやってくる。
その他、極薄ながら力強いコシがある精緻なガルガネッリやタリオリーニがソースと共鳴し、感嘆の声を上げさせるのである。
個性といえば、「クラッティーニ」のストリーニも強烈である。
なにせ合わせるムール貝に合わせて、倉谷シェフが創作してしまったのである。薄く伸ばした生地を、きっちりと固く丸めて切ったショートパスタは、むっちりと歯を包み込むような食感と豊かな粉の風味があって、太って噛み応えのある甘いムール貝とぴたりと調和する。
それは、食べていて楽しさのあまり歌い出したくなるような、痛快なパスタである。