板焼き新時代2004

食べ歩き ,

鉄板焼きといえば、ホテルのステーキハウスや六本木辺りの有名ステーキ店で、ステーキやエビ、アワビなどを焼いて食べるというのが、今までの通例であった。ところが昨今、新たな価値を生み出す鉄板焼きの店が増え、人気を得ているのである。


六本木・a hill
 新時代の鉄板焼きを代表する店として、連夜満席。シェフの山下九さんを始めスタッフはみな若く、ついでにイケメン揃いなことも手伝ってか? 女性連れ客多し。明るく清潔感に富む室内は、Jの字型の鉄板カウンターとテーブル席。
 前菜、肉料理、カレー、デザートのコースは三千九百円。セコンドとチーズが加わると六千円。おまかせ八千円で単品注文も可。前菜のおすすめは、味わいが柔らかいガスパチョソースがカツオと合う「初カツオのカルパッチョ、ガスパチョソース」、スダチの酸味が効いた白ワインソースがアスパラを盛り立てる「ホワイトアスパラガスのソテー、あさりソース」など。セコンドでは、皮目をカリッと焼きあげ、中はしっとりと蒸すように火が通された、塩加減も大胆でよい、「赤イサキのポワレ、タップナードソース」がよい。日によってはない日があるので、シェフに本日入荷の魚より相談すると唯々だろう。また魚料理につけ合わされる、筍、レンコン、チンゲンツァイなどの野菜の火の通しも、文句なし。
 メインでは、わさび醤油、ゆずコショウ、ポン酢が添えられる、宮崎都城の牧場直送の「牛サーロインステーキ」(50グラム千六百円〜)いい。鉄板焼きにありがちな、焼き油の切れ悪さがなく、塩加減もよく、脂部分の後口もきれい。もう一つのおすすめがハンバーグ。上質な和牛に、若干の白金豚とフォアグラを混ぜたパテで、目の前でふっくらと膨れながら焼く様はよだれを誘う。ジューシーでいながら練り肉のならではの練れたうまさがあって、うなるは必至。
 締めのご飯でまず食べたいのが名物カレー。霜降り牛肉のコマ切れを炒め、マッシュルーム、タマネギ炒め、ご飯を合わせ、ルウを入れてドライカレー風に炒め上げた上から、さらにルウをどろりとかけたもの。自家製福神漬といいカレー好きにはたまらぬ逸品。また「あわび焼き飯」は、細かく切ったアワビにご飯を炒め合わせ、醤油、岩海苔で調味し、紫蘇を混ぜて青ネギを散らしたっもの。岩海苔の香りがアワビの風味を引き立てて、実に上品な味わい。できればカウンターに座り、シェフの話をしながら食事を楽しみたい。ただし混雑店ゆえ、予約は二週間以上前に。


千駄ヶ谷・莢
 人気の広島風お好み焼き店が、隣に出した鉄板焼き屋。いつか鉄板焼き屋を出したかったと、温和な声で語るご主人の創意工夫にあふれた料理がいただける。
 「さや餃子」六百五十円は、薄い皮で少量のアンを包んだ、カリカリと香ばしい皮に、ビールが進んで困る餃子。「レンコン焼き」八百八十円は、生地を円形に薄く丸く延ばし、周囲にレンコンの薄切りをのせて両面焼き、巨大なひまわりの花のように仕立てたもの。こちらも絶好のビールの友で、パリッと甘いレンコンに病み付きとなる。箸安めとしてよい「さや豆腐」は、自家製豆腐に、中トロ、オクラなどを刻んで混ぜ込んだもので、よくよく混ぜて食べる。魚介類で人気は「生き帆立のグリル」。鉄板ではなく、グリル台にて、だしを加えながら焼きあげる。「サーロインステーキ」は、百グラム二千五百円より。しめは、やはり「広島風お好み焼き」千五百円。ダシ、山芋、卵黄を混ぜ込んだ 生地を薄くひきキャベツ、帆立て、イカ、タコを乗せ、黒豚をのせ、裏返したら、卵白を泡立てたものを塗る。ソースを塗り、マヨネーズを井げたに塗り、カツオをかけて完成。厚みを帯びて焼かれたお好み焼きは、外はカリッした食感ながら、中はふわりとした対比的な食感でお見事。


成城学園・登喜 
 雑居ビルの奥、「神戸ネギ焼き」の文字が掲げられた、さりげないたたずまいながら、何十種にもおよぶ創作鉄板焼きの宝庫。いずれも舌が喜び目を丸くするは必至。十数年前の創業ゆえに、この店のみ新時代とはいえないかもしれないが、その創造性は、いまだに他の追随を許さない。
 拍子切りのジャガイモを、表面はカリリと中はほくほくに焼きあげて、うっすらとついたマヨネーズ味がやさしい「ポテトのマヨネーズ炒め」。にんにく香をほどよくきかせ、中心を半生に焼いた「ヤリイカのにんにく炒め」。ジューシーな肉あんをのせて皮をぱりぱりに焼きあげた「オープン餃子」。見事なコテさばきでまとめあげる、濃厚で甘い「ウニオムレツ」。生地を薄く延ばして山芋、青ネギ、グリュエールチーズの順にのせ、生地を少量垂らして醤油を塗った「和風クレープ」。オイスターソースとカレー粉、ナンプラーとにんにく、唐辛子、レモン汁などを巧みに駆使した「砂肝セロリ炒めアジア風」。チーズの上に薄切りにんにくをのせ煎餅のように焼いて紫蘇を散らした「にんにくチーズのぱりぱり煎餅」。長ネギ、長芋、フォアグラ、バルサミコを合わせた、芋の甘みと粘りけがファグラと調和する「長芋フォアグラ」など、どの料理も素材をいたずらに組み合わせる事なく、食感、味わいの組合せを十分に考えた料理ゆえに、実に痛快。最後は冬期限定ながら、味の染み込んだ牛スジなどがいい秀逸の「ネギ焼き」を。
 店主の希望により住所電話番号記載不可。成城学園南口を出て西に線路沿いを百メートル戻った左手の集合ビル奥。


恵美須・バンブークラッシイ
 ビルの地階。ゆったりとソファーやテーブル配された空間に、柔らかい光が漂う。バーのような空気が流れる、モダンな鉄板焼き屋。鉄板カウンターは六席。
 前菜は、まぐろ赤身などの魚介類や松の実などを包み込んだ人気の「王様キムチ」八百八十円のほか、「イタリアトマトの冷製」、長さ三十センチもある「茹でアスパラガスのアンチョビブロッコリーソース」など、日替りのおすすめ野菜料理で鉄板焼きを迎え撃つ準備を。次に里芋、レンコンなど好みの「野菜焼き」四百円〜を。魚介では、、ジンで蒸し焼きにし、蛤の風味を生かした「蛤の酒蒸し焼き」二個千円、炒めたご飯を韓国海苔にのせ、うにと木の芽をのせた「生雲丹と焼き飯」千二百円。上品な滋味ときれいな脂が特徴の豚肉を芹とともに合わせて食べる「六白豚」。しっとりとした肉質をもつ「和牛サーロイン」50グラム千八百円などを。しめは、スジコン(牛筋とコンニャクの甘辛煮)がいい味を出している薄焼きの「ネギ焼き」。焼きそばを薄い生地でふわりと包み込んだ「バンブー焼き」を。