たかむらに来て思うのは、ほっこりとおいしいということである。
高級食材や、割烹としての凛とした料理もある。
だが一方で、気取りなく、親しみやすい味わいがあって、それが心をほぐしてくれるのである。
例えば八寸に続いて出された、小ヤリイカの煮物はどうだろう。
こっくりと甘辛く、煮ふくめられたイカの味で、思わず燗酒に手が伸びる。
しかしながらイカの火入れが絶妙て、小ヤリイカらしい繊細さを大切にしている。
「珍しく秋田で180kgのマグロが上がりました」と、蛇腹の造りと、中トロの握りを出してくれた。
夏のマグロらしく、脂は乗っていないものの、鉄分の酸味があって、口の中を爽やかな風が吹き抜けていく。
それを引き立てるのは、酢飯である。
寝かせた酢としての、自然な甘みと深いコクがあるすし酢は、ミツカンの非売品「又左衛門」を使ったのだという。
寝た酢ならではのまろやかさと深い旨み、が夏のマグロを凛々しく引き立てる。
さらに、鴨と松茸の筏焼きもいい。
これは別々に食べてはいけない。
鴨と松茸を抱き合わせて、ひとくちでいく。
すると鴨脂が松茸を抱き込んで、少し勇壮になる。
良き動物性脂と相性がいい、松茸の本分が現れた料理である。
そんな料理たちを肴に、燗酒が進む。
小番、花邑、飛良泉山廃など、今夜もどっぷりと飲んだ。