もうもうたる煙と共に、熱気が吹き出していた。
別府鉄輪(かんなわ)温泉である。
別府市のなかでも源泉温度の高い「鉄輪温泉」では、温泉の蒸気が噴き出す窯を「地獄釜」と呼び、その釜で蒸す料理を「地獄蒸し」と名づけられたという。
この地獄蒸しを利用したイタリアンがあると聞きつけてやってきた。
そもそもイタリア料理では、蒸し煮はあっても蒸し料理は少ない。
そんな逆境の中でいかに料理を完成させるのか。
実に面白い試みではないか。
その店、「オットエセッテ」は、野菜に限らず、パンも、魚も肉も蒸しあげる。
まず驚いたのは、ポモドーロのパスタである。
上に乗った蒸したというプチトマトが、加熱されているというのに、微塵も崩れていない。
生の姿を保ちながら、味が濃くなっている。
さらにソースは塩が淡いのに、麺がもちもちとして、麺自体に甘味がある。
聞けば温泉水で茹でているのだという。
それによって普通の湯でに茹でるより、三分の一程度の塩分ですむらしい。
それでいながら、腰の強さが出て、甘みも引き出せる。
理想ではないか。
「今日はまだ完成してないのでお出しできなかったのですが、茹でないで地獄蒸しで乾麺に火を通すことを考えています」。
また長時間蒸してからサッと揚げた鮎は、骨まで柔らかくなりながら、味が逃げていない。
肉も蒸すと味がぼやけるyのではないかと思ったが、意外にも濃い。
梯哲哉シェフに聞けば、もう七年ほどやっているが、ここまでこぎつけるのには、大変な苦労があったという。
「地獄蒸しで一番メリットが得られる食材は?」と、聞いてみた。
「筍です」。
シェフは即答された。
地獄蒸しするだけでアクが抜け、甘味がぐったますらしい。
これはまた春に来なくてはならないね。
別府鉄輪温泉 「OTTO e SETTE」にて