この焼きトン屋には、日本一が二つある。
一つは、おそらく日本一安い。
一本から頼めるやきとんは、どれも百円、ボールは300円である。
「安いですね」。そういうと
「全部自分一人で仕込んでいますから、値段を抑えられます」。
「いや、大したことはないですよ」と、涼しい顔をして答えられた。
店主石井さんはサラリーマンをやられていた。
だが会社勤めは、どうも向いておらず、毎日が苦しかったという。
ある日入った、新井薬師のやきとん屋で、客と店員が楽しそうに会話を交わしている光景を見て「ああこんな楽しい職場もあるんだ」と、衝撃を受け、会社を辞めて、そのやきとん屋で働き始めたという。
いまでは各地に支店を出した、「四文屋」の本店である。
色々食べたが、オススメは味が濃く、噛みしめる喜びがある「豚顎」と、味噌ダレが合う「ハツモト」である。
牛すじのにこみや、うずらにベーコンを巻いて焼くのかと思いきや、燻製したうずらとベーコンを交互に刺し、串元に近くになるに従ってベーコンを小さくして食べやすくした「うずらベーコン串」などもいい。
もう一つの、おそらく日本一を紹介したい。
焼いている人が若く美人なのである。
しかも焼いているときや注文を受けるときは、厳しい顔をしているが、たまに微笑むときの笑顔が可愛い(バカだなあ)
おっさんや野郎でなく、女性がやきとんを焼いているのは珍しく、しかも美人。
これは他にはないのである。