カツ丼の祖は早稲田のそば屋「三朝庵」の玉子とじカツ丼とされているが、実は、「三朝庵」に影響を与えた真の元祖が、同じ地にあった。
それが福井にある「ヨーロッパ軒」である。
大正2年に料理発表会でソースカツ丼を披露した高富増太郎が、早稲田に「ヨーロッパ軒」を構えて人気を得た。
だが関東大震災で被災した彼は、故郷の福井に帰って、店を再建する。
その元祖カツ丼が、百数年ぶりに東京に戻ってきた。
「ヨーロッパ軒」の味を愛するオーナーが、敬意を込めて発祥の地へ店を開いたのである。
なによりこの蓋つきというのがいい。
蓋を閉める即ち、客の期待も籠めるという丼文化を、きっちりと継承しているではありませんか。
蓋を開ければ、ソース色に染まったカツが現れ、ソースの匂いが鼻をついて、唾を飲み込ませます。
そのソースが素晴らしい。
「旬香亭」古賀シェフが作ったソースは、丸く優しく、カツを持ち上げながら、下品の迫力もあって、御飯を猛然とかき込ませるのである。
カツは、食いちぎる喜びがある「厚カツ」が2枚に、ソースのうま味を味わう「薄カツ」が3枚という布陣で、飽きさせない。
脇役陣の御飯、味噌汁、お新香も上等で、一点の曇りもない。
卵とじカツ丼が主流の東京に、新たな歴史を刻もうというこの気概が、うれしいじゃありませんか。