今月もまた、多岐にわたる食事をいただいた。料理人も趙楊さんや斉須シェフ、小野二郎さんといったベテランから「海味」や「陳」。「篠原」や「336ebisu」といった若手の料理まで堪能させてもらった。
今月食べた中で最も印象的だったのは「星のや東京」の料理である。
魚だけでコースを組み立てるという難しさを克服し、フランス料理でも日本料理でもない浜田シェフの料理を、下記に記した提言も含めて完成しつつある点が素晴らしい。
そうした“新しさ”という観点では、「336ebisu」も面白かった。
料理は、サラダにテリーヌ。ムーレットに鴨のコンフィというビストロ料理の定番で、目新しさはない。
しかし伝統料理の魅力の芯は抑えながら、モダンに仕立てる料理構成や、提供の仕方に、新しさを感じたのである。
去年9月に開店した店を切り盛るのは、パリ「パッサージュ53」出身であるソムリエの山﨑智隆氏と、齊藤駿シェフという二人である。
例えば、バリッと香ばしく皮を仕上げた「鴨のコンフィ」は、鴨肉の滋味がしっとりと舌を包む、堂々たる料理に仕上がっている。しかし付け合わせは、おなじみのどっしりとしたポムピュレではなく、オリーブのコンフィ、マデラ酒漬けの葡萄、鶏ブイヨンで煮た発芽大豆に、ポムドフィーヌと、手が込んでいる。
オリーブの酸味が鴨と強調し、他の様々な食感が、食べ進むことを楽しくさせる。
一方で、フォンドヴォーとマデラ酒のソースが、ワインを恋しくさせる。
ピアノの調理師から料理人に転身したというシェフは、食べることが大好きで、数々の店を食べ歩いたという。
そんなシェフらしい料理である。
どの料理も、「どうだ。これが自分のオリジナル」と訴えてくる、肩肘張った押し付けがましさがない。
こんな料理を自分が食べたかったという、素直な感情の発露に満ちているから、食べているとウキウキとしてくる。
そんな料理が、アラカルトで選べ、しかも、前菜や主菜だけという使い方もできるという。
またブルゴーニュの好みで意気投合し、一緒にやることになったというだけあって、ワインの揃えもいい。
「あそこは気楽に過ごせるけど、すごくおいしいものや飲み物があるよね。そして高くないよね。と言われる店を作りたかったんです」と、山崎氏はいう。
年々東京には、新しいフランス料理店が出来ていくが、意外にこんな店は少なかった。
「ワインの好きなお客様が、お好きなものを好きなように食べて飲んでいただきたい」。
どんなお客さんに来て欲しいですかと尋ねると、山崎さんはそう答えられた。
そう、たまにはお仕着せのコースから抜け出し、自由に遊ぼうじゃないか。