住宅街に一つ、赤いネオンが灯っている

食べ歩き ,

住宅街に一つ、赤いネオンが灯っている。
大正時代の倉庫を改造したというバーは、今も営んでいた。
もう15年ぶりになるだろうか。
ぶっきらぼうだが根は優しいご主人は元気だろうか?
店に入ると、女性二人が切り盛りされていて、ご主人はいない。
以前にはなかった、モルトウィスキーや山崎もある。
「エズラブルックス12年のダブルをロックで」。
僕は今までの店の流儀に従ってバーボンを頼んだ。
大きなタンノイのスピーカーから、ジャズが静かに流れる。
世間と隔離された空間の時間が、ゆったりと流れていく。
時を見て尋ねて見た。
「ご主人はどうなさったのですか?」
「もう亡くなって10年経ちます。12年前にバイクで事故をして店に立てなくなって。それから2年後に亡くなりました」。
朗らかな顔で答えられたのは、ご主人の奥様だった。
12年前から店に立ってるという。
店内には、ご主人が集めた古いスキーの板や、楽器、カメラ、自転車などが飾られている。
「いろいろな趣味をお持ちだったんですね」。そういうと奥様は、笑いながら言った。
「ええ。仕事以外はなんでも好きな人でしたから」。
湯島にて。