厚切りのとんかつを発案したのは、一説によると、今は無き上野の「ぽんち軒」といわれる。
その由緒ある名を掲げた、とんかつ愛に溢れた店である。
その愛を代表するのが、この店特有の「ヒレ一本揚げ」だろう。
なにしろ一本そのままをを揚げるのである。
それゆえ揚げるのに、30分はかかる。
堂々たる体躯で横たわるとんかつに、箸をつける。
衣がまとったごま油の香ばしさが口に広がり、柔らかでしっとりとした肉に歯が包まれる。
その瞬間、肉汁とともに、甘く、優しい香りが鼻に抜けて、なんとも幸せな気分になる。
この香りこそ、ヒレカツの真骨頂であろう。
普段から「とんかつは脂が魅力のロースカツ」と決めている方も、必ず趣旨がえしたくなる逸品である。
一方「特ロースかつ」は、肉のきめが実に細かく、みっちりとついた脂も上質で、噛むとさらりとしていて、甘い香りを放ちながら溶けて、切れもいい。
とんかつソースは濃いが、甘すぎないので肉を生かすが、卓上に置かれた太陽ウースターソースの方が、その辛味とスパイシーな香りで、特にロースカツの甘みを際立たせるので、お奨めである.
「ヒレ一本揚げを、一人で食べられるお客さんもいらっしゃいます」。というとんかつ愛に満ちた店で、さああなたは、どう食べよう。