一皿一万八千円の料理である。
食べて味わい、相応の値段だと思う人もいれば、高いと思う人もいるだろう。
香港や上海でご馳走を食べ慣れている方にとっては、高値ではない。
それは裕福であるかというということより、経験値を重ね、それはそれだけの値段を出さぬと食べられないと知っているからである。
「堂弄蟹粉千葉 館山海虎翅。千葉館山極上フカヒレと上海蟹の各種部位の炒め」である。
フカヒレと一言にいっても、値段は千差万別で、この「海虎翅ホイフーチー」とは最も高い「天九翅」に続いて二番目に高級とされるフカヒレである。
このフカヒレはそうであり、イタチザメの尾びれである。
しかも二回干しているために弾力性が増しているという。
そんな高価なフカヒレを12人で一本半使い、上海蟹に白子や卵と炒め合わせるのだからたまらない。
ちなみに12人前で上海蟹24ハイ分ある。
もう計算ができません、ハハハ。
上海蟹は、雄のしらこ、雌の卵、脚肉、胸肉、爪肉、上海蟹のオイルを入れていく。
そのほかに野菜オイル、ネギ油、紹興酒、生姜、きのこ、パクチー、卵黄、塩、砂糖、鳥のエキス、白胡椒、もやしとなる。
土鍋に火を入れ、正確な順番でそれぞれの食感や香りを生かすように精妙に火を通して出来上がる。
フカヒレには、味がない。
だから、上海蟹の白子と卵の合わさった豊満な味わいである。
上海蟹と日本のカニの美味しさの違いは脂にあるので、何かこう官能を責め立てられるような、味わいに脈動があって、気分が高揚する。
フカヒレは、柔らかなゼラチン質の食感が楽しめ、歯ごたえがありかつ滑らかで唇に触れ、歯を喜ばせ、口腔内の粘膜にしなだれる。
つまり海虎翅ならではの、太い一本一本が上海蟹のエキスをまとって、生き物ように、口の中で舞を踊るのである。
これはいけません。
高価だから、貧乏根性丸出しに一本一本噛み締めながら食べたいのに、内なる熱情に火をつけられてコーフンし、箸が止まらない。
気がつけば、皿は空になっていた。
これもまたゼータクという観念を伴った、快楽なのだ。
三越前「蟹王府」にて
快楽を堪能したい方は五万円のコースにこの料理は含まれるという。
ある意味お値打ちかも。