<会いたい人がいる店はいい店であるシリーズVOL7>
昭和の香り漂うビルのスナック街に一軒、若女将が営む店があった。
外から様子は見えず、木の扉を引くとカウンターが現れ、「いらっしゃいませ」と明るい声がかかる。
着物を着込んだ若女将は、素敵な笑顔でよく笑う。
「ここに来て初めて料理をお出しするんです。緊張します」。
元々はイタリアンのサービス出身である彼女は、そう言って照れ笑いした。
メニューには、おつまみ、ちょっとしっかり。
裏面には、パスタ数種〆ご飯が書かれていた。
酒は、日本酒、焼酎、ビールにウィスキー、ナチュラルワインがある。
客は好きなように過ごせばいい。
酒だけでもいいし、軽くつまんでも、がっつり食べてもいい。
僕はといえば、最初からがっつりのつもりである。
「ではおつまみから、ぬか漬けとタコとジャガイモのサラダ、王様椎茸と鮎の熟れクリームをください」
これらでビールと白ワインをやろう。
70数年というぬか床で漬けた野菜は、なじみ方がまろやかで、オレガノジェノベーゼであえたタコとジャガイモは白ワインが恋しくなり、いずみ屋の白熟クリームを和えた椎茸は、どうにも色っぽい。
「よし今度はちょっとしっかりから、ハムカツとロールキャベツ、極みえのきといってみよう」。
モルデッラによるハムカツは、衣の下に憎い香りが隠されていて笑い、それだけでうまい高知の極みえのきは、えのきを糠漬けしたパウダーがかけられて、味が濃縮しとる。
そしてロールキャベツの肉は、粥と一緒に発酵させた豚肉を使っているため、味わいがカーブを描いて心を掴む。
こりゃまたワインを持ってこい。
おかげでお腹が空いた。パスタと行こうじゃないか。
「ペッピーノの発酵バターとアウリッキオのパルミジャーノレッジャーのタリアッテッレとポモドーロのピチ、faloの豚と牛のミートソーススパゲッテイを所望致します」と、一気に行かせてもらった。
タリアッテッレとピチは、若女将手作りである。
特にタリアッテッレは某茗荷谷の名店直伝で、パスタマシーンを使わずに打ったものである。
「うまいっ」。
バターの香りに満ちたタリアッテッレを一口食べて叫んだ。
パスタが天女の羽衣のように軽く、チーズの旨味とバターの香りを伴ってスルスルと消えていく。
しっかりと固いピチも、「タリアッテッレはバターとチーズに頼るだけだし、ミートソースは他店で作ったものを合えるだけだけど、トマトソースは私が作っているんで緊張します」と、しきりに照れていたソースも美味しかったぞ。
調子に乗って、シャンツァイジェノベーゼも頼んで、これを八海山の焼酎と合わせてみました。
ああ楽しかった、料理も美味しいけど女将石原ちゃんと話す時間が楽しいわ。
お客さんもそれが目当ての人ばかりのようだね。
ごちそうさまでした。
あっ若女将の写真撮るの忘れた。
自由が丘「まーに」にて。