ジビーフはエレガントで、あか牛は、ふくよかだった。
京都「草喰 なかひがし」の中東さんと、熊本「アンティカ・ロカンダ・ミヤモト」の宮本さんによる、ジビーフと阿蘇あか牛のコラボイベントである。
「今日は何曜日ですか? 」
「火曜日」。
「いや金曜日、フライデー」と、
得意のダジャレで中東さんが店で出すビフカツを、中東さんの息子さんが揚げられた。
ジビーフのフィレである。
カリリと香ばしい衣が弾けると、歯がふんわりと肉にめり込んでいく。
柔らかな食感に仕上げられた肉から、ほんのりと青草の香りが漂い、優しい滋味が流れ出す。
味にしなやかさがあって、揚早わらびと春キャベツと食べ、和胡桃を添えた菊芋のソースと食べれば、北海道様似の広大な光景に、春が降りてくる。
続いて宮本さんが炭火焼きした阿蘇のあか牛を噛めば、コンソメのようなうまみが、噛むほどに溢れてでた。
黒文字で燻したという、褐変した肉の表面は、うまみといううまみが凝縮して、ため息をつくほどにおいしい。
肉もさることながら、カブリの脂部分が甘い。
筋がある部分なのに感じさせず、健やかな脂の甘みが広がっていく。
それでいてまったくしつこさはなく、さらりと消えていくのだった。
僕は噛み締めながら目を閉じ、阿蘇で出会った牛たちの綺麗な毛並みと澄んだ眼を思い浮かべながら、最後の一切れまで噛んで噛み尽くした。