いいハンバーガーは、登山に似ていると思う。
遠くで見れば美しく、登れば険しい山ほど魅了される。
平坦な山には、魅力がない。
いま目の前に置かれたハンバーガーは、見目麗しいが厳しくそびえ立ち、まさに登頂を挑んでいる。
「おまえには、食べる度量があるのか」と、問いかけてきた。
その勇姿には、様々な具材が見え隠れしている。
登らなければわからないこともたくさんあろう。
一口ではいけないと思い、切ってはいけない。
かぶりつく。
齧りつく。
それこそがハンバーガーに対するマナーである。
我は大口を開けて、顎関節が外れるくらいの口を開けて挑む。
バンズにふわりと歯が減り込むと、パテの優しい味が広がった。
牛肉と豚肉の混合だというパテには、穏やかな滋味があって、他の具と調和しようとする意思がある。
おぅ甘い味がする。これはスペリブの照り焼きだな。
そこへ特製サウザンアイランドソースのうまみが追いかけ、レタスやトマトのみずみずしさが弾け、チーズのコクが広がり、ハラペーニョの辛味がキックする。
そして最後に、香菜の香りが抜けてゆく。
この香りがいい。
たっぷり入った香菜は、険しいルートを登ってきた登山家を中腹で迎え入れる山小屋のように、一服の幸せをもたらすのである。
まだ道半ばである。
これだけ具が入っていると崩れやすい。
だが両手で慎重に持ちながら、力を入れ、山頂を目指さなければいけない。
途中で溢れでた汁もフライドポテトですくって、食べ進まねばならない。
きっと食後には、天界から見下ろす爽快が待っているだろう。
ホテルニューオータニ「トレーダーヴィックス」の「ヴィックス バージェロンバーガー」 3,700 円