彼女の唇にスープが吸い込まれていく。
ゲランのキスキス ローズリップだろうか。
自然な発色で艶やかな赤い口紅をぬった彼女の唇に、緑のスープが飲み込まれていく。
スープを飲む女性の口元は美しい。
僕は見て見ぬ振りしながら、一緒にスープを飲んだ。
牡蠣とほうれん草を一緒に混ぜ合わせたという熱い液体が、舌を過ぎ、喉に落ちていく。
牡蠣の滋養がゆっくりと花開き、その中をほうれん草のかすかな甘みが通り過ぎる。
「はあ」と、ため息ひとつ。
彼女も「ふうっ」と、小さなため息ひとつ。
目があった。
微笑む。
なにも言葉を発しなくとも、「おいしいね」と、心を交わす。
やがて彼女は、スープの中に入った牡蠣をすくい、ゆっくりと口に運んだ。
ふっくらと膨らみながら、ぬらりと輝く牡蠣の淡く白い身が、赤い唇に滑り込む。
その瞬間僕は、気絶しそうになった。
「トレーダーヴィックス」の新メニュー「薪窯焼き広島産牡蠣入りボンゴボンゴスープ」。