「今日はガツないの?」
常連さんの言葉が聞こえてきた。
「ないね。レバーならいいのがあるよ」。
「じゃあニラレバーを」。
「はいよ」。
「宝永」は、餃子が上手いことで知られる街の中華料理店である。
店は八人も入れば満席になるカウンターだけの店を、23年間老主人一人で切り盛りしている。
ご主人一人ということもあって、1830から2030と営業時間も短い。
この短い時間を狙って、常連客が押し寄せる。
餃子を頼むとアンをつうんで焼き始める。
焼きあがった小ぶりな餃子を噛めば、カリッと痛快な音がして皮が弾け、中からキャベツを主体としたアンが現れた。
キャベルが甘い。いやそれよりもキャベツがシャキシャキと、軽快な歯触りをみせるではないか。
聞けば、アンは揉まずに入れているのだという。
そのため水分が抜けることなく、シャキシャキが生まれるのである。
カリッ。シャキシャキ。カリッ。シャキシャキ。
食感が楽しく、瞬く間に8個の餃子を食べ終えてしまう。
餃子に続いて、これまた名物の冬減退だという「シュウマイ」が蒸しあがった。
シュウマイも小ぶりである。食べて目を見開いた。
皮に存在感がある。
おそらく皮を二重に巻いてあるのだろう。皮が重なっているところがほの甘い。
小麦粉の甘みをにじませながら、とろんと溶け、その後に練り肉の旨味にごま油を効かせたアンの旨味が追いかける。
シュ舞を食べているのに、自分が皮に包まれたような、安堵感が漂うシュウマイなのである
これは大変危険である。止まりません。
一人前ずつ食べたというのに、「お代わりしちゃえ」と、頭の中で食いしん坊の悪魔が囁く。
「どうしようか」と、悩んでいるところへ、先ほどの会話が聞こえてきた。
ニラレバが誘惑する。
「高知は野菜がうまいからね」と、ご主人が言ってニラをさっと炒めて取り出した。次に冷蔵庫から艶やかなレバーを取り出した。おおっこれは、一般的に使われる豚のレバーではなく、牛のレバーではないか。
「牛のレバーですか?」
「そう。豚のレバーなんか食えんよ。でもいいレバーは冬だけだからね、だからニラレバは冬しかやらん」。
その言葉を聞いた瞬間に、「ニラレバーをーつください」と注文していた。
レバーは、筋取り、片栗粉を叩いて10秒ほど油通しをし、さらに炒めて醤油や砂糖、オイスターソースなどで味付けをし、炒めたニラの横に置く。
レバニラといっても、分離状態のレバニラである。
レバーは鮮度がいいのだろう。えぐみも臭みも微塵もなく、身が漲るようなハリがあり、優しく甘い。
ニラはシャキッとした歯触りがあり、噛めば繊維が残ることない柔らかさで、ニラ本来の甘みが滲む。
レバーの甘みとニラの甘みが呼応する。
酒が止まらない。
顔がだらしなく崩れる。
ニラレバを食べ終わると、「これサービスね」といって、サツマイモの飴炊きを出してくれた。
飴が固まってカリリと音を立てる表皮と、ほっくりとした芋の対比が楽しい、中国料理定番のデザートである。
さあ、これで有終の美を飾ろうとしていると、再び常連客が、隣の客と交わす言葉が聞こえてきた。
「ここは豚足の煮込みもうまいんだ。あと焼きそばや炒飯もね」。
ああ勘弁してくれ。
もうお腹いっぱいだというのに、頼んじゃうじゃないか。