「これはおばあちゃんの大好物でした。肉も魚も乳製品も口にしない人で、毎日豆ばかり食べていました」。
そう言われて出されたのは「お福豆」だった。
2/16日「浜作」の一皿目である。
鬼の紋様が外側に描かれた丸鉢の中に角小鉢が置かれ、鬼が嫌う柊木の葉が飾られて、二種類の煮豆が整えられていた。
薄口だけで炊かれた豆の味は淡く、ほんのりと塩分を補うように、カラスミの微塵が極少量混ぜられている。
一粒ずつ前歯で噛みしめ、ゆっくりと口を動かす。
豆の穏やかな甘みが、緩やかに口を満たしていく。
その汚れのない純真な甘みが、舌を洗い、体の邪気を追い出す。
自然と背筋が伸び、これからいただく贅沢な時間へと心を向かわせる。
鬼は外、福は内。
食べ終えた小鉢の底からは、福の文字がのっそりと顔を出した。