大阪「もめん」

風呂吹き大根のエレガント。

食べ歩き ,

箸は、微かな抵抗を感じながら、すうっと降りていった。
断面から汁が滲み出て、鈍く光る。
味噌を乗せたまま、ふうふうと2度息を吹きかけ、ゆっくりと口に運ぶ。
大根は、柔らかく柔らかく、炊かれていた。
だが腑抜けではない。
完全に柔らかくなる、その少し手前で止めてあるのだろう。
大根としての自尊心がまだあって、それが歯の間で息吹を上げる。
冬を生き抜き、土中で肥えた甘さが舌に落ちる。
その時、昆布鰹出汁だけではないうまみが、微かによぎった。
おそらくなにかの高級な干物を潜ませているのだろう。
しかしやりすぎではない。
大根の力強さを讃えるように、優しさに沿うように、静かに加えられている。
大根と出汁の蜜月を、出過ぎないふろふき味噌の味が、静かに抱きすくめる。
大根と出汁、そして味噌が交わす情愛がある。
たがらこそだろう。
こんなにエレガントな風呂吹き大根は、ない。
以前ご主人が言われたことがる。
「この料理は難しい。同じ畝から収穫しても個体差があるので、それを見極めなくてはいけない。この料理がダメやったら、その前の伊勢海老もフグもヒラメも鯛のお椀も、皆ダメになってしまう。だから難しいんや」。
大阪「もめん」にて。